人員整理をめぐる労働争議

1950(昭和25)年4月にトヨタ自販が設立されたものの、事態は好転するどころか、ますます悪化していった。同年1月には鉄鋼の統制価格が前年9月に続き、30%程度引き上げられた。非鉄金属についても、1949年9月に鉛、亜鉛、銅などの価格統制が廃止され、さらに1950年1月にはアルミの統制価格が撤廃され、市場価格は大幅に上昇した。

このような原材料価格の高騰に対して、既述のとおり、自動車の統制価格は同年4月まで据え置かれた。そのためトヨタ自工では、経営合理化策を強力に推進したにもかかわらず、1949年11月16日~1950年3月31日の4カ月半(「企業再建整備法」による変則的な決算期)の決算は7,652万円の損失となった。トヨタ自工の労働組合は、会社の業績がいっこうに回復しない状況から、人員整理は必至と判断し、同年3月中に準闘争態勢を確立した。以後、労使交渉は長期にわたる争議へと激化していった。

トヨタ自工の労働組合は、1946年1月19日にトヨタ自動車コロモ労働組合の名称で結成され、同年4月7日には第1回経営協議会を開催した。労使で構成する協議機関としての経営協議会では、主要な労働条件をはじめ、生産計画、経営組織などについて意見交換が行われ、1946年7月25日には労働協約が締結された。その後、1948年3月に全国組織の産業別単一組合である全日本自動車産業労働組合(全自動車)が、94分会・約4万人の組合員をもって結成され、トヨタ自動車コロモ労働組合は全日本自動車産業労働組合東海支部トヨタコロモ分会となった。1

一方、1949年12月に発足した日本電装(現・デンソー)では、トヨタ自工よりもひと足さきに、人員整理をめぐって労働争議が起こった。日本電装は、設立から4カ月後の1950年3月31日、473名の人員整理を含む会社再建案を発表したのである。当時の日本電装の労働組合は、トヨタ自工の労働組合と同じ全日本自動車産業労働組合(全自動車)東海支部に属し、その日本電装分会と称していた。

トヨタ自工の労働組合は、争議行為に入った日本電装分会を支援するため、4月7日に争議行為通知書を提示し、4月9日から争議行為に入ることを会社側に通告してきた。そして、労働組合側は会社再建策の提出を再三にわたり要求し、会社側は早急にそれを提示することになった。

その結果、1950年4月22日開催の第8回団体交渉で、会社側は以下のような会社再建案を提示した。

  1. 1.会社は人件費の削減をせざるをえない。芝浦・蒲田工場を別にして、本社在籍人員中から1,600名(病院、生協、保険組合を除く)の希望退職者を募集する。
  2. 2.残留者については10%の賃下げを行う。
  3. 3.希望退職者には、退職手当金規程第1号表の支給額に加えて、基準賃金1カ月分および独身者3,000円、世帯者5,000円を支給する。
  4. 4.芝浦・蒲田工場は閉鎖したいが、独立採算可能の見通しあるものについては考慮したい。
  5. 5.保険組合、生活協同組合、病院は分離または独立させる。
  6. 6.給与制度の改革ならびに強力な配置転換を行う。
  7. 7.再建案の協議は4月24日から3日間とする。3日後の措置については、3日間中に協議する。

この人員整理を柱とする会社再建案に対して、労働組合側は不満を表明し、4月24日から労使間で具体策を討議することになった。しかし交渉は難航し、覚書が締結される6月10日まで、さらに1カ月半も争議が続いた。

なお、表1-22は、1950年1~8月の会社側と労働組合側との協議事項をまとめたものである。

表1-22 トヨタ自工と労働組合との協議内容(1950年)

年月日
交渉種別
協議内容
1950年
1月13日
第117回経協
賃金等の精算払い、1月生産台数、職制、硅肺手当
2月5日
第118回経協
1月度賃金、販売会社設立
2月12日
(組合)
販売会社設立に対する回答書
2月14日
第119回経協
販売会社設立、給与超過額修正と都市手当
2月28日
第120回経協
2月度賃金
3月6日
第121回経協
 〃
3月15日
第122回経協
 〃
3月27日
第123回経協
賃金
3月29日
第124回経協
 〃
4月5日
第125回経協
 〃
4月11日
第1回団交
団交運営、争議通告、3月度賃金、覚書
4月13日
第2回団交
団交運営、3月度賃金、争議通告、覚書、買い戻し原因
4月15日
第3回団交
団交運営、賃金、争議通告、覚書、買い戻しに関する販売部回答
4月18日
第4回団交
団交運営、争議通告、3月度賃金、買い戻し原因、覚書
4月19日
第5回団交
会社再建案
4月20日
第6回団交
会社再建案(販売対策、材料費対策、電装工場争議、3月度賃金)
4月21日
第7回団交
3月度賃金、日本電装争議、会社再建案
4月22日
第8回団交
会社再建案(希望退職者1,600名募集、退職手当、残留者10%賃下げ)
4月24日
第9回団交
再建案、日本電装争議、会社パンフレット「従業員各位」、三栄組人夫、会社掲示板、分工場団交
4月25日
第10回団交
会社再建案(販売部資本金流用、3,000万円借り入れ、販売条件・販売台数)
4月26日
第11回団交
会社再建案(販売条件、販売先・台数、ニッサン車値上げと会社再建案との関連)
4月28日
第12回団交
会社再建(組合側の仮処分申請、販売部資本金流用)
5月2日
第13回団交
会社再建案
5月4日
第14回団交
 〃
5月6日
第15回団交
会社再建案、3月度賃金
5月8日
第16回団交
3月度賃金
5月11日
第17回団交
退職手当規定改訂並暫定退職手当、4月度賃金
5月14日
第18回団交
退職手当規定改訂並暫定退職手当、4月度賃金、賞罰委員会、三栄組の問題、森 勉除名、勧告状(退職勧告)
5月18日
第19回団交
退職手当規定改訂並暫定退職手当金、4月度賃金、勧告状、生活困窮資金、主食掛売保証
5月23日
第20回団交
退職手当規定改訂並暫定退職当金、4月度賃金
5月27日
第21回団交
4月度賃金、労働協約、社長・副社長・西村常務辞任、退職手当金規程
5月30日
第22回団交
4月度賃金、暫定退職手当金規定、就業規則
5月31日
第23回団交
暫定退職手当金規程、就業規則
6月2日
第24回団交
4月度賃金、暫定退職金
6月4日
第25回団交
早期解決(会社側から早期解決申し入れ)
6月5日
第26回団交
早期解決
6月6日
第27回団交
 〃
6月7日
第28回団交
 〃
6月8日
第29回団交
 〃
6月10日
第30回団交
覚書締結
(第31回~35回:省略)
7月17日
第36回団交
除名
8月16日
第126回経協
越盆資金、経協委員資格
(注)
 経協は経営協議会、団交は団体交渉。経営協議会は第125回以降中断され、労働争議における団体交渉となった。

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