第8節 本格的乗用車トヨペット・クラウンの登場
第3項 本格的乗用車トヨペット・クラウンの開発
R型エンジンの開発
1947(昭和22)年4月発売のSB型小型トラックに搭載されたS型エンジンは、当初からボデーの大きさに対して、エンジンの力不足が指摘されていた。これを受けて、トヨタ自工では、1948年初めにS型と同じくサイドバルブ(SV)式を採用した1,500ccエンジンの試作を決定し、P型エンジンを製作した(表1-39)。
表1-39 S型・P型・R型第1次試作エンジンの仕様比較
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S型(1947年)
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P型(1948年)
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R型第1次試作(1951年)
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型式
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水冷、直列4気筒、SV式
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水冷、直列4気筒、SV式
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水冷、直列4気筒、OHV式
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内径×行程
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65×75mm
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不明
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75×82mm
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総排気量
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995cc
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約1,500cc(詳細不明)
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1,449cc
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最高出力
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27HP/4,000rpm
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40.5HP/3,800rpm
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44.6HP/4,000rpm
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- (出典)
- S型:『トヨタ技術』1948年6月1日、「トヨペット(小型トラック)仕様書」
P型・R型1次試作:『トヨタ技術』1954年1月1日、「R型エンジンの生まれるまで」
その後、運行試験データの解析結果などから、性能の優れたオーバー・ヘッド・バルブ(OHV)式に変更することになり、1951年1月にはR型エンジンの第1次試作が完成した。SB型トラックにR型エンジンを載せ換えて、性能の確認を行ったうえで、同エンジンの量産を決定し、1952年3月に設計が完了した。
ところが、同年5月に豊田英二専務から内径と行程の寸法変更の提案があり、両寸法が等しいスクエアになるべく近づけるように設計を変更することになった。その理由は、①OHV式エンジンの全高および重心位置が高くなることをできる限り抑える、②エンジンの回転数を高くできる、③新設計の外車に搭載されているエンジンはほとんどスクエアである、などの点があげられている。1952年8月に設計が完了した最終的なR型エンジンの仕様は、表1-40のとおりである。
表1-40 R型エンジンの仕様(1952年)
項目
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内容
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型式
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水冷直列4気筒、OHV式
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内径×行程
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77×78mm
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総排気量
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1,453cc
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圧縮比
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6.8:1
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最高出力
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48HP/4,000rpm
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最大トルク
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10kg・m/2,400rpm
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- (出典)
- 『トヨタ技術』1954年1月1日、「R型エンジン」
R型エンジンは、A型エンジン以来のトヨタ伝統のOHV式を採用した。部品・設計面では、カーター型下向通風キャブレター、濾紙式エア・クリーナーをはじめ、種々の機構・装置などがB型エンジンと共通していた。1その外観はB型エンジンに酷似し、一見してトヨタ開発エンジンとわかる印象であった。
R型エンジンを搭載した車種としては、1943年9月にSF型系乗用車を改造したトヨペット・スーパーRH型系乗用車と、SG型トラックを改造した1.25トン積みトヨペット・トラックRK型が発売された。RH型系乗用車は、関東自動車工業製(RHK型)と三菱重工業製(RHN型)の2種類があり、ボデーは従来どおり、それぞれの会社が設計・生産を担った。そのため、これらの乗用車に関しては、トヨタ自工が定価設定や品質保証を行うことは難しかった。
R型エンジンの出力は48馬力となり、S型エンジンの28馬力に対して、大幅に増大したにもかかわらず、燃費では大差がなく、経済性に優れていた。その出力を生かした走行性能は格段に向上し、RH型系乗用車を試乗したタクシー業界関係者は、乗り心地、力、運転性にまったく問題ないと評価した。
生産体制については、設備近代化5カ年計画の後半で、挙母工場機械工場の専用工作機械を主体とする最新鋭の生産設備が整えられ、発売直前の1953年7月には月産500台のR型エンジン・ラインが完成した。また、R型エンジンを搭載すべき新型乗用車も、1952年1月から開発が始まっていた。