SA型乗用車、SB型トラック

S型エンジンを搭載する車両としては、SA型乗用車の設計が先行していた。しかし、当時は乗用車の生産が認められておらず、トラックの開発を優先すべきとの考えから、SB型トラックの完成を急いだ。SB型小型トラックの設計は、1945(昭和20)年12月に着手され、リアアクスル、ディファレンシャル・キャリア、ブレーキ系については、AC型乗用車の部品を利用することとされた。1

SB型小型トラックは、1947年4月に発表となり、生産を開始した。シャシーの仕様は表1-25のとおりで、運転台と荷台はトヨタ車体で架装された。

表1-25 SB型トラックの仕様(1948年)

項目
内容
エンジン
S型(995cc、27馬力)
全長
3,800mm
全幅
1,600mm
全高
1,725mm
車両重量
1,200kg
標準積載量
1,000kg
(出典)
トヨタ技術会『トヨタ技術』1948年3月1日

一方、SA型小型乗用車は、SB型トラックよりも一足早く、1947年1月に試作第1号車が完成した。発表は上述のような事情から、9カ月後の同年10月となったが、その間の8月に公募を行い、「トヨペット」の愛称を決定した。これに伴い、SB型トラックはトヨペット・トラックの愛称で呼ばれた。SA型トヨペット・乗用車の仕様は、表1-26のとおりである。

表1-26 SA型乗用車の仕様(1948年)

項目
内容
エンジン
S型(995cc、27馬力)
全長
3,800mm
全幅
1,600mm
全高
1,530mm
車両重量
940kg
最高速度
80km/h
(出典)
トヨタ技術会『トヨタ技術』1948年3月1日

SA型の車体は、フォルクス・ワーゲンのビートルに似た流麗な形状で、フレームには1本のパイプで構成されるバックボーン式を用いた。プロペラシャフトは、そのパイプの中を通ってディファレンシャル・キャリアに連結するという、従来のトヨタ車には見られない設計であった。また、前後輪とも独立懸架式とし、前輪はコイルばね、後輪は1本の横置き板ばねを採用した。大変意欲的な設計といえたが、当時の乗用車需要の中心であるタクシーには不向きであり、自家用乗用車としては時期尚早と評された。

性能面では、SA型乗用車の評価を高めるエピソードが残されている。1948年8月7日に行われた急行列車との名古屋・大阪間の競走で、SA型乗用車が大阪行き急行列車に先着したのである。午前4時37分名古屋発の急行第11列車と同時に出発したSA型乗用車は、東海道線とほぼ並行する旧中山道など、悪路を含む全行程235kmを平均時速約60キロで走破し、列車到着予定時刻の46分前、午前8時37分に大阪駅へ到着した。なお、名古屋・大阪間の鉄道営業キロは194kmである。

SB型トラックが1952年2月までに1万2,796台が生産されたのに対して、SA型乗用車はGHQ(連合国軍総司令部)から許可された限定的な生産にとどまった。

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